家族とともに、
自然の声を聴きながら。
細い道の先に、広がる茶畑。
「僕が生まれた年に植えた茶の樹もあるんですよ」と笑って出迎えてくれたのは、小倉園3代目の秋山剛さんです。
小倉園が初めて茶の樹を植えたのは、およそ57年前のこと。それ以前はなんと養豚場だったそうです。
祖父の代から茶の販売を始め、委託販売から自社販売へ、機械を整備して自家工場を設立するなど、上下町の地で歩み続けてきました。
秋山さんも幼少期から茶園業に奮闘する両親の手伝いをしていたと言います。
「やり出したら、嫌じゃなくてね。遊びの感覚なんですよ。」
中学生になる頃には、自然と「自分もお茶をやるんだ」という気持ちが芽生えていました。
しかし、なんとなくご両親にその気持ちを伝えられず、いつの間にか進路選択の岐路に立つ高校3年生を迎え、突然「茶園を継ぐ」と宣言した秋山さんに家族は驚いたそう。
お父様は「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ…。」と大慌てで、一緒に進路に悩んでくれました。
それでも見事、国の運営する茶業試験場に合格し、秋山さんはお茶の世界へ足を踏み入れます。畑の再生や茶園管理・製造・販売までされる様になっていらっしゃいます。
志を抱いて静岡へ向かった秋山さん。平日は試験場で学び、土日は近隣の茶農家さんでバイトをする忙しい日々。卒業後も1年間は静岡に残って働き、「広島に帰ったら、必ずいいものを作ろう」という思いで経験を積みました。
静岡での3年間を終えたころ広島に戻った秋山さんは、お父様と共に上下町の自然の中で今日までお茶作りを続けています。
小倉園のお茶は上下町の自然があってこそのお茶。
冬は寒く、夏も涼しいこの地では、虫が越冬できないという利点を活かし、創業当初から無農薬栽培を続けています。
早めの収穫を実施したり、自然に棲む蜘蛛の力を借りながら、虫の被害や病気をコントロール。
肥料の入れ方も研究に研究を重ね、窒素成分を県の基準値の半分以下まで抑えた栽培に取り組んでいます。
「見て覚える。見て盗む。」
静岡で、父親の隣で、腕を磨き続けてきた秋山さん。
現在は、同じく茶業試験場から戻ってきたばかりの息子さんとともに、世代を超えた茶づくりに日々奮闘しています。
「僕は、機械とか茶揉みとかそういうのが好きだったんだけどね。息子は成分分析に興味があるみたい。全然違いますね。」
ふたりだからこそ作れるお茶が、私たちに至福の和紅茶を運んでくれます。
鈴の茶より、感謝を込めて。