幻が現実に。
そして未来も
ずっと。
紅茶好きなかたが、和紅茶(国産紅茶、日本の紅茶)をお求めになるとき、必ず出会うのが吉田茶園さまの「いずみ品種」の紅茶です。摘採時期や酸化発酵の度合いでコロコロと表情を変える、香り豊かな「いずみ」の紅茶。吉田茶園6代目茶園主・吉田正浩さんのいずみへの熱意と努力が織りなした逸品です。そもそも「いずみ」は、60年以上前に釜炒り茶として輸出用に開発された品種でした。ところがデビューを目前に日本は高度成長期に入り、お茶は輸出ではなく国内消費される内需へと変わり、「いずみ」は活躍の場を失い世間から忘れられていきました。
1991年、園主の正浩さんが静岡県牧之原市にある国立茶業試験場の研究生だった頃の話。教官の先生に、萎凋・発酵によって香りが高まる個性光る品種がないかと尋ねたところ、「いずみ」を教えてもらったそうです。その翌年から苗木栽培をスタートさせ、煎茶をつくり始められました。「いずみ」の良さをお客様に知って頂こうと試行錯誤される中、煎茶づくりのヒントとなれば、と紅茶を初めてつくられたのが2012年。それから正浩さんは並々ならぬ研究を重ね、今では国内外で沢山の方から支持を得る和紅茶へと「いずみ」を大復活させました。
「いずみ」の春摘み、夏摘み、さらにはその中のロットの違いでも、香りの種類や余韻の感じ方が全く異なります。「いずみ」の飲み比べは、他ではなかなか味わえない幸せな体験となりました。
私が吉田茶園さまにお邪魔したのは、6月の雨の日。お店の入口では、のんびりくつろいだ看板猫ちゃんが出迎えてくれました。「いずみ」の紅茶をはじめ、「ほくめい」やオリジナル種茶「美紗希」などの品種茶も多く並んでおり、一つ一つを丁寧に茶園主の奥様・貴子さんが説明してくださいました。
作業場の前にある樹齢100年をゆうに超えるであろう大きなお茶の樹を下から覗くと、茶色く太い枝が左右に複雑に伸び、重なりあった葉っぱの隙間から雨上がりの光がさしていました。この大きな茶の樹は、長い間、日の目を浴びなかった「いずみ」が、6代目によって今や国内外で喜ばれる紅茶として復活を遂げたことをしっかり見守っているようでした。
「いずみ」さん。どうぞ、末長くよろしくお願いいたします。
鈴の茶より、感謝を込めて。