雪ふる山で
過ごす
真夏のある日
博多から新幹線で20分ほど。遠くまで見渡せる一面の筑後平野の中、ポツンと立つ筑後船小屋の駅に降り立つ。続いていく川沿いの桜並木に、遠目に見える段々の茶畑。めくるめく車窓から山に向かって40分ほど進んでいくと、突然現れる美しい古民家が茶寮 千代乃園さんです。茶農家であるお茶の千代乃園さんが、奥八女の食文化を守っていきたいという思いから、2019年にオープンしました。現在はお茶の千代乃園の生産者さんである原島ご夫妻の娘さんが切り盛りされています。
細く長く続くアプローチをワクワクと進んで行き、戸を開けると、元々はお蕎麦屋さんだったという古民家の暖かく優しい雰囲気に包まれます。川にせり出した縁側のテラスは折々の季節を照らし、いただいた氷出し煎茶とともに、真夏の今日を涼やかなひと時に誘ってくれました。地元のおばあちゃんたちのレシピで振る舞われるおむすびや、お茶漬けは絶品。夏限定の、和紅茶とあまおうのミルクかき氷は生涯忘れられない極上の一品でした。
お茶の千代乃園さんのお茶は、「雪ふる山のおそぶき茶」。茶寮を後にし、原島さんのご案内で茶畑に向かう道すがら、お話を伺います。お茶の千代乃園さんの茶畑があるのは、標高600mの山の中。冬は雪が茶畑を覆い、新茶が芽吹く時期は一般的な新茶のシーズンが終わってから。一方で、寒さゆえに害虫が少ないという利点を生み、原島さんは有機栽培への取り組みに力を注いできました。
機械は入れられないという険しい斜面を登り、段々になった茶畑のてっぺんに立つと、すっと澄んだ風が通り抜け、この大自然の恵みに、その守り人である生産者の皆さんに、想いを馳せます。そして帰路、のんびり路線バスに揺られながら駆け抜けた筑後平野の夕陽は、それはまた素晴らしかったなあ。
鈴の茶より、感謝を込めて。